相続・遺言

遺産分割協議書は自分で作れる?つまずきやすいポイントと専門家に相談する目安をやさしく解説

はじめに

ご家族が亡くなったあとの相続手続き。

「専門家に頼まなくても、自分でできるらしい」

と耳にしたことがある方は多いかもしれません。

 

たしかに、それは間違いではありません。けれど、いざ進めてみると

「これで合っているのかな」

「ここはどうすれば」

と立ち止まる場面が、思いのほか出てきます。

このコラムでは、相続手続きの中でもよく登場する

「遺産分割協議書(いさんぶんかつきょうぎしょ)」を入口に、

ご自身でできる部分と、つまずきやすい部分を、できるだけやさしい言葉で整理してみます。

 

「頼むべきかどうか」を決める前に、まず全体像をつかむための読みものとして、肩の力を抜いて読んでいただけたらうれしいです。

 

そもそも「遺産分割協議書」って何?

遺言書が残されていなかった場合、亡くなった方の財産を「誰が・何を・どれだけ受け取るか」は、

相続人みんなで話し合って決めることになります。

 

この話し合いを「遺産分割協議」と言い、

その結果を書面にしたものが「遺産分割協議書」です。

 

預貯金を解約したり、不動産の名義を変えたりするときに、

「相続人みんなで、こう分けることに合意しました」という証明として、銀行や法務局に提出する書類、とイメージしていただくとわかりやすいと思います。

 

自分で作れる? 様式は自由?

はい、この書類は専門家でなくても作れます。

決まった用紙や役所の書式があるわけではなく、パソコンでも手書きでも構いません。

書き方の自由度は高いものです。

ただ、「自由だからこそ、押さえておきたいこと」がいくつかあります。

 

それが次の4つです。

  • 相続人全員が参加して合意すること(一人でも欠けると無効になります)
  • 全員が署名し、実印で押印すること
  • 全員の印鑑証明書を添付すること
  • 誰が・どの財産を受け取るのかを、財産が特定できるように具体的に書くこと

「財産が特定できるように」というのは、

たとえば不動産なら住所ではなく登記簿のとおりに書く、

預貯金なら銀行名・支店名・口座番号まで書く、ということです。

ここが曖昧だと、手続きの途中で止まってしまいやすい部分です。

 

「自分で作れる」のに、専門家に頼む意味はあるの?

ここで多くの方が感じる疑問があります。

「合意さえできていれば、書類自体は作れる。やりとりの面倒さや書類の手間を別にすれば、わざわざ頼む意味はあるの?」というものです。

 

正直にお伝えすると、相続人が少なく、全員を把握できている。

財産もシンプルで、関係も良好である、という条件がそろっていれば、ご自身で作って十分にまわるケースもあります。

 

そのうえで、専門家の出番がどこにあるかと言えば、

実は「書類を作ること」そのものよりも、その前後にあります。

 

① 作る前の「相続人を確定させる」作業

協議書は「相続人全員の合意」が大前提でした。

では、その「全員」が本当にそろっているか、どうやって確かめるのでしょう。

これは、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの戸籍をすべてたどって確認します。

 

古い戸籍は手書きで読みにくかったり、引っ越し(転籍)であちこちの役所に請求が必要だったりします。

そして時には、ご家族も知らなかった相続人が見つかることもあります。

たとえば、前の結婚でのお子さんや、認知された(法律上、親子と認められた)お子さん。
あるいは、本来相続するはずだったお子さんがすでに亡くなっていて、
そのお孫さんが代わりに相続人になっているケースなどです。

もし一人でも見落としたまま協議書を作ってしまうと、

その協議書は無効になり、最初からやり直しになってしまいます。

 

② 作ったあとの「提出先を見据えた設計」

遺産分割協議書は、それ自体が目的ではなく、たいていは

「預金を解約したい」

「不動産の名義を変えたい」

といった次の手続きのための書類です。

 

提出先によって求められる書き方や添付書類が微妙に違うことがあり、

最終的にどこに出すのかを見据えて作っておかないと、せっかく作ったのに受け付けてもらえず作り直し、ということが起こります。

ゴールから逆算して設計できるのは、専門家にお願いするメリットのひとつです。

 

③ 中立な立場の人が間に入る安心感

相続人同士は仲が良くても、お金の話になると言い出しにくかったり、誰かが仕切ると角が立ったり、ということがあります。

中立の立場の人が手続きとして進めることで、感情的なこじれを防げる、という面もあります。

 

ここまでのまとめ

ここまでを簡単に整理すると、

  • 遺産分割協議書は自分でも作れる
  • ただし相続人全員の参加が必要
  • 一番難しいのは「誰が相続人か」を正しく確認すること

次は、その戸籍の確認がなぜ大切なのかを見ていきます。

 

「戸籍をたどる」って、みんなやっているの?

ここで、もう一歩踏み込んだ疑問が浮かぶかもしれません。

「戸籍を集めるとしても、それを一枚ずつ読んで『他に子はいないか』を確かめる作業まで、普通の人はやっているの?」と。

 

正直なところ、多くのご家族は、銀行や役所に「これを出してください」と言われたものを集めて提出しているだけで、集めた戸籍を能動的に読み解いているわけではありません。

「自分たちだけだよね」という思い込みのまま進み、特に何も出てこず、無事に終わるというのが、実は大半です。

 

ではなぜ「見落とし」が問題になるかというと、

戸籍を読んで確認しているのは、むしろ提出先(銀行や法務局)の側だからです。

提出された戸籍がつながっているか、そこに載っている相続人と協議書の署名者が一致しているかを、窓口がチェックします。

 

だから、ここに署名のない相続人がいれば、提出先が気づいて手続きが止まることがあるのです。

ただし、このチェックも万能ではありません。

書類が形式的に整っていて、誰も名乗り出なければ、そのまま手続きが進んでしまうことも現実にはあります。

 

「進んでしまった」と「有効である」は、別の話

ここで大切な区別があります。

手続きが進んでしまうことと、その協議書が法的に有効であることは、別の層の話だ、ということです。

名乗り出る人がいなければ、手続きは事実として進みます。

 

けれど、相続人全員の合意がそろっていない協議書は、もともと法的には不安定なまま。

あとからその相続人が現れれば、自分の取り分を主張できます。

すでに名義を変えた不動産を売ってしまっていた、というような場合には、かえって大きな争いになりかねません。

 

「見つからなければ大丈夫」が通用しないということ。

ここに、相続人をきちんと確認しておく意味があります。

 

ご家族に「判断能力が下がってきた方」がいる場合

ここからは、もう一段大切なお話です。相続人の中に、認知症などで判断能力が下がってきた方がいる場合、話が変わってきます。

 

なぜ問題になるのでしょう

遺産分割協議は、「自分の取り分はこれでいい」と理解して合意する行為です。

その判断がご自身で難しい方が、形だけ署名をしても、その合意は有効とは言えません。

本来は、判断能力の程度に応じて家庭裁判所に成年後見人(せいねんこうけんにん)などを選んでもらい、その方が本人に代わって協議に参加する、という筋道になります。

 

でも、実際には…

現実には、対応に悩まれるご家族も少なくありません。

後見人をつけると、その方の財産管理がずっと家庭裁判所の監督下に入り、遺産分割が終わったあとも続きます。

専門職が就けば毎月の報酬も発生します。

 

「この相続を片付けたいだけなのに」と、ためらう気持ちは自然なものです。

ここでも、外部で気づく可能性があるのは主に提出先の窓口です。

金融機関は近年、ご高齢の方の判断能力に敏感になっています。

 

けれど、ご本人が窓口に来られず、書類が整っていれば、外から判断能力の有無を見抜くのは難しいのが実情です。

そして、たとえ手続きが進んでも、その協議が法的に不安定なままであることは、やはり変わりません。

 

だからこそ、「元気なうちの備え」が効いてきます

ここまで読んでくださって、「では、どうすればいいの?」と思われたかもしれません。

大切なのは、問題が起きてから乗り越える方法を探すより、問題そのものが起きないように、元気なうちに備えておくという発想です。

 

たとえば、ご自身が元気なうちに遺言書を作っておけば、その財産については遺産分割協議そのものが不要になります。

協議が要らなければ、判断能力が下がったご家族を、重い手続きの当事者にせずに済みます。

 

「守りたい人を、かえって大変な立場に置かずに済む」わけです。

ほかにも、財産の長期的な管理の仕組みを作る家族信託ご本人がまだ契約内容を理解できるうちに

「将来弱ったらこの人に任せる」と決めておく任意後見契約など、状況に応じた選択肢があります。

 

そして共通して言えるのは、早めに動くほど、選べる方法が多いということです。

判断能力の低下が進んでしまうと、取れる選択肢はだんだんと狭まっていきます。

「まだ大丈夫」と思える今だからこそ、できることがあります。

 

必要なところだけ、お手伝いできます

相続手続きは、「自分でできる部分」と「専門家の手があると安心な部分」が、思っているより細かく入り組んでいます。

ご自身で進められそうなら、それもひとつの選択です。

 

専門家へ相談するというと、
「全部お願いしなければいけない」
と思われる方もいらっしゃいます。

 

でも、「自分でできるところは自分で進めたい」というご相談も珍しくありません。

戸籍を集め始めたばかりの方や、「うちは遺産分割協議書が必要なの?」といった段階からでも大丈夫です。

まずは今の状況を一緒に整理し、ご自身で進められるところと、専門家がお手伝いした方が安心なところを確認しながら、これからの進め方を考えていきます。

 

※このコラムは一般的な情報をお伝えするものです。個別のご事情によって最適な進め方は変わりますので、具体的なご相談は専門家にお問い合わせください。

 

東久留米市を中心に、清瀬市・小平市・西東京市などで相続や遺言のご相談を承っています。

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