前編では、事実婚とはなにか、何もしないとどう困るかをお話ししました。
後編は、いよいよ契約書の中身です。
「お別れのことまで書くの?」
「家具はどうするの?」
そんな、なかなか聞けないところまで。
事実婚契約書は、別れる準備をするための書類ではありません。
この先も一緒に暮らしていくために、今まで言葉にしてこなかったことを、ふたりで確かめていくためのものです。
事実婚契約書には、何が書けるの?

契約書って、なんだかむずかしそう……

大丈夫、堅い書類というより「ふたりの約束を、言葉にして残すもの」と思ってください。たとえば・・・
📌 書ける内容の例
- お互いを人生のパートナーとする、という気持ちの確認
- 生活費をどう分担するか
- 病気やけがをしたとき、医療機関から説明を受けてほしい相手として、お互いを指定しておくこと
- 一緒に暮らしている家や、家具・家電などの持ち方
- 動物と暮らしている場合、その子のこと
- もし、お別れすることになったときの取り決め

おわかれのことまで書くの? さみしい……

お別れする場合のことも、大切な項目のひとつです。落ち着いて話せるうちに決めるからこそ、お互いに配慮した内容にしやすいんですよ。
事実婚契約書は、ほんとうに役に立つの?

紙を一枚作るだけで、そんなに変わるの?

正直にお伝えすると、契約書が役立ちやすい場面と、契約書だけでは実現できないことがあります。
📌 契約書が役立ちやすい場面
- 生活費の分担、財産の持ち方、別れるときの取り決め(おふたりの間の約束)
- 病院や施設で、関係を説明する材料になる
- 賃貸契約や保険の手続きのときの説明材料
📌 契約書だけでは実現できないこと
- 相続 …… 契約書があっても、相続人にはなれません
- 税金の配偶者控除 …… 法律婚だけの制度です
- 病院で「必ず説明を受けられる」保証にはなりません

じゃあ、あんまり意味ない……?

そんなことないよ。いちばん確かなのは、おふたりの間に「こう決めたね」という約束が残ることです。

ふたりの間の約束は、ふたりで決められるんだね。

そうなんです。それに、病院や施設などで、おふたりの関係や本人の希望を伝える材料にもなります。

見せれば、必ず希望どおりにしてもらえるの?

必ず、とは言えません。実際の対応は、病院や施設などの方針や、そのときの状況によって異なります。それでも、「誰に説明を受けてほしいのか」を言葉にしておくことには意味があります。

できることと、できないことがあるんだね。

はい。それから、契約書を公正証書にする方法もあります。

公正証書?

公証人という、公的な立場で法律に関する文書を作る人に、おふたりの意思を確認してもらいながら作るものです。普通の契約書よりも、「おふたりがこの内容に合意した」ということを示しやすくなります。

公正証書にすれば、もっと安心なんだね。

はい。ただし、公正証書にすれば、すべての希望が必ず実現するというものではありません。契約書でできることと、できないことを知ったうえで、おふたりに合う形を選ぶことが大切です。
お別れの話をしたら、その場でケンカになりませんか?

でも、お別れの話なんてしたら、気まずくならない?

……いい質問ですね。実は、ここがいちばんむずかしいところなんです。

やっぱり!

話しにくいことが見つかったとしても、それは悪いことではありません。

そうなの?

「ここは、ふたりの考え方が少し違うんだな」と、早めに気づけたということです。今すぐ答えを出さなくても大丈夫。話題を分けたり、少し時間を置いたりしてもいいんですよ。それに、白紙から考えるからつらいんですよね。

どういうこと?

たとえば、法律婚では法律上どのように扱われるのか、事実婚ではどんなことを決めておくとよいのか。そのたたき台を、最初にお出しします。

あ、それいいね。ふたりでルールをながめる感じ。

まさにそれです。向かい合って交渉するんじゃなくて、隣に並んで、同じ紙を見る。
📌 もめにくくする、4つの工夫
- お別れの話から始めない …… まず「生活費どうする?」から。その延長で、自然にたどり着きます
- たたき台をお出しする …… 白紙は、いちばんつらい。変えたければ変えればいいんです
- 第三者を間に入れる …… 「こういう決め方もありますよ」と言える人がいると、話が進みます
- 見直せるようにしておく …… 「今決めたら一生」だと思うから、重くなるんです
見直すって、どうやって?

見直せるって、どういうこと?

たとえば、こう書いておきます。「3年ごとに見直します。ただし、どちらからも申し出がなければ、そのまま続きます」って。

なにも言わなければ、続くんだ。

はい。何も変わっていなければ、毎回作り直す必要はありません。ただ、暮らしに変化があったときは、見直しを申し出ることができます。

言っていいことになってるんだね。

そこ、すごく大事なんです。「言いにくい」を「言っていいことになっている」に変えるだけで、ずいぶん楽になります。
📌 見直しの決め方(例)
- 3年ごとに見直す。申し出がなければ、そのまま継続
- 申し出があったら、誠実に話し合う。変更について合意できるまでは、現在の内容をどう扱うかも決めておく
- 次のようなときは、いつでも見直せる
→ 収入が大きく変わったとき/引っ越したとき/新しい家族(お子さんや動物)を迎えたとき/どちらかに重い病気やけががあったとき

話し合いがまとまらなかったときのことも、決めておくんだね。

はい。見直しを切り出しやすくするためにも、大切なことなんです。
家具や家電は、どうやって決めるの?

冷蔵庫とか、こまごましたものは? 買い替えるたびに、もめない?

これ、いちばん現実的なご質問です。正直に言うと、一つずつ決めるのは無理なんですよ。

だよね。ぼくのごはんのお皿も割れたら買うし。

ふふ、そうですよね。だから「モノを決める」のはやめて、「ルールを決める」んです。

ルール?

たとえば日用品や一般的な家具・家電については、「一緒に暮らしている間に買ったものは、お金を出したのが誰でも、ふたりで使うもの」と決める方法があります。

らくちん!

例外だけ、はっきりさせておくという方法です。
📌 例外にしておくもの(例)
- 一緒に暮らす前から、持っていたもの
- 相続や贈与で受け取ったもの
- お洋服やアクセサリーなど、その方だけが使うもの
- お仕事の道具

お仕事の道具まで、はんぶんこにされたら困るもんね。

そうなんです。あと、大きな買い物だけは記録を残す、というやり方も。「10万円を超えるものは、事前に相談して、買った日と金額をメモしておく」とかですね。

ぜんぶ記録しなくていいんだ。

はい。1万円の炊飯器は自由に買っていい。30万円のソファだけ、ひとこと相談する。それくらいがちょうどいいですよ。
それで、別れるときはどう分けるの?

でも結局、分けるときは大変じゃない?

たとえば、「家に残る方が家具や家電を引き取り、出ていく方には、あらかじめ決めた金額を渡す」という方法もあります。

えっ、細かく分けなくてもいいの?

はい。そうすれば、取り合いや運び出す手間を減らせます。
📌 家財について、決めておける3つのこと
- 共有する方法 …… 日常的な家財は、ふたりで使うものとして扱う
- 大きな買い物だけ記録する方法……一定額を超える物だけ、購入者や負担額を残す
- 別れるときの金額を先に決める方法……細かく分けず、家に残る側が引き取り、もう一方へ決めた金額を渡す
おふたりに合う方法を選び、必要に応じて組み合わせることもできます。

別れるときの金額を先に決める方法って、ざっくりだね。

ざっくりです。でも、きっちり分ける労力やストレスを考えると、こちらのほうが負担が少ないと感じるおふたりもいます。
ペットのことも、書いておける?

……ぼくって、モノなの?

民法の上では、ペットも財産として扱われます。もちろん、一緒に暮らしている方にとっては、大切な家族ですよね。

うん。家族だよ。

だからこそ、別れることになってから決めようとすると、とてもつらい話し合いになります。元気に一緒に暮らしているうちに、「誰が一緒に暮らすのか」「費用はどうするのか」を話しておくことが大切なんです。

じゃあ、「たくさんお世話をしたほうが引き取る」って書けばいいの?

それだけだと、どちらが多くお世話をしたのかで意見が分かれることがあります。できれば、「もなかは〇〇が引き取る」というように、あらかじめ名前を決めておくほうが分かりやすいです。

先に決めておくんだね。

はい。ただし、病気や転居などで暮らし方が変わったときは、話し合って変更できるようにしておきます。
引き取らなかったほうは、どうなるの?

もし、どっちかに引き取られたら、もう片方とは会えないの?

何も決めていないと、そうなりがちです。ある日ぱたっと、会えなくなる。

それは、さみしい。

ですよね。だから「年に何回か会えるようにしよう」と書いておくこともできるんです。お世話の費用を分担して、様子を知らせ合う、というやり方も。

じゃあ、両方ともぼくのこと、心配してくれるんだ。

そういう形にしておけますよ。
📌 引き取らない側についても、書けること
- ペットの体調や暮らしに負担がない範囲で、会える機会をつくる
- 病気になったり、高齢になったりしたら、知らせる

会う回数や費用だけでなく、体調が変わったときにどう知らせるかも、決めておけます。

離れて暮らしても、気にかけてもらえるんだね。

はい。いちばん大切なのは、もなかが安心して暮らせることですから。
契約書だけで、じゅうぶん?

契約書を作れば、亡くなったあとのことも大丈夫?

契約書と遺言書では、役割が違うんです。相手に財産を残したい場合は、契約書とは別に、遺言書も考えておく必要があります。

暮らしている間の約束と、そのあとの備えは、分けて考えるんだね。
📌 ここがポイント
- 事実婚契約書 → これからの暮らしの約束
- 遺言書 → 亡くなったあとのこと

必要に応じて、両方を考えるんだね。
結局、作ったほうがいい?

で、けっきょくどうなの?

必ず作らなければならないものではありません。ただ、生活費や住まい、ペットのことなど、決めておきたいことがあるなら、話し合った内容を形に残しておくと安心につながります。

話すこと自体が、だいじなんだね。

そうなんです。「そういえば、これを決めていなかったね」と、ふたりで気づける時間。それが、契約書を作る大きな意味だと思っています。

書類を作るだけじゃないんだね。

はい。書類は、おふたりがこれからの暮らしについて話し合った、その証しなんですよ。

……なんだか、あったかい話だったね。
🌿 後編のおさらい
- 契約書は、ふたりの間の約束を形にしたもの
- 白紙から考えなくて大丈夫。たたき台があります
- 見直す時期やきっかけを決めておけば、話を切り出しやすくなる
- 家財は、モノではなくルールを決める
- ペットは、先に引き取る人を書いておく。会える形も残せます
- 事実婚契約書と遺言書は役割が違う。相手に財産を残したい場合は、遺言書も考える

「何から話し合えばよいのか分からない」
「うちの場合は、どんなことを決めておけばよいのだろう」
そのような段階でも、ご相談いただけます。
まずは、おふたりの現在の暮らしや、気になっていることをお聞かせください。


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